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ダーリンは普通の日本人?「ダーリンはネトウヨ」読書会記録(ネタバレあり)

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「ダーリンはネトウヨ 韓国人留学生の私が日本人とつきあったら」

著者:クー・ジャイン

翻訳:クー・ジャイン,金みんじょん

解説:Moment joon

発行:明石書店

「ダーリンはネトウヨ」は著者クー・ジャインさんが日本留学時代に日本人の先輩と付き合った経験をもとに制作したコミックエッセイ。クーさんがTwitterに本作のモデルになった元彼の愚痴を書いていたところ、編集者の金みんじょんさんに「これを何かのかたちにしてみないか」と声をかけられ制作がスタート。2022年から2023年まで韓国のサイトNAVERにて韓国語で連載されました。単行本発売はこの日本語版が初めて。

あらすじ

期待を胸に日本で留学生活を始めた韓国人のうーちゃん。オーケストラサークルで出会った日本人の先輩いっしーと付き合うことになった。付き合って一ヶ月、いっしーが「きれいな日本語」を喋ってと言ってきたのだけど…積み重なるモヤモヤの先にしたうーちゃんの選択とは?

作品の時代設定は2010年〜2020年。(明石書店の内容紹介文に補足)

私はこの漫画を2022年の韓国語版連載時に知りました。Twitterでたまたま目に止まった可愛らしい絵柄のイラストと刺激的なタイトルに惹かれ、韓国語の連載時を翻訳機を使い読んでいました。待望の日本語版発売を機に、読書会を主催。主にInstagramを通して集まった参加者の方々と本の感想を語り合いました。

平日の夜に開催された読書会は初対面の参加者もいたにも関わらず、2時間30分近くぶっ続けで話し合う白熱したものに。「作中の2010年代初めから原題にかけ日本の外国人を巡る言説はどう変化した?」などこの本を通し現実社会の問題について対話し、話題は自分の外国人への偏見の省りみ方、周囲の”ネトウヨ”との接し方への議論にも発展。発見が多く、充実した時間となりました。

読書会の内容紹介

この会は事前に参加者から集めた質問の答えを一人ずつ順番に話し、意見交換するスタイルで行なわれました。完全にネタバレしています。

本作に絡めた参加者4人のプロフィール

R:読書会主催者。ほぼ日本で育った日本と東南アジアのミックス。子供の頃は外国から来た人に「日本語上手ですね」と言うなど、本作で日本人がうーちゃんにするようなマイクロアグレッションをしたことがある。うーちゃんが自分より日本語能力が劣る韓国人留学生や”外国人らしい外見”の外国人に感じる微妙な気持ちに身の覚えがあった。

AR:両親ともマジョリティの日本人の営業職。いっしーよりハードコアなネトウヨである上司によく絡まれており、バトルしている。自分自身も中学生の時は韓国に対して偏見がもあったが、大学生の時に韓国に短期留学したことをきっかけに認識を改めた。

AK:海外にルーツはない日本人。国際高校から日本で一番留学生が多い大学に進学し、20代後半からはずっと海外に住んでいた。そのため「ダーリンはネトウヨ」に登場する日本人の発言には強い既視感を覚えた。

T:海外にルーツはない日本人。タイトルに興味を持ち参加。兄がTwitter嫌韓をはじめ差別発言を繰り返す(ネトウヨと呼ばれると怒られるタイプの)ハードコア・ネトウヨネトウヨとはなるべく関わらないようにしている。

1.特に気に入ったところ

  • 悪意のない差別で外国人が削られていく話を小説ではなく、読みやすいマンガで伝えている
  • 物語としての強度
  • 繊細な演出

AK :日本人では書けない物語。(主人公が付き合うネトウヨの彼氏)いっしーは異常ではない。私が思っていたほどネトウヨではなかった。彼は右翼の街宣車に乗るようなネトウヨではなく、彼のような日本人はたくさんいる。私も彼かもしれない。

この物語を漫画として描いたのが良い。小説などで読むのとは違う良さがある。物語は桜で始まり桜で終わる。最初の桜は日本、最後の桜はアメリカ。桜を思い出してこの漫画を描いたのかなと思った。(主人公の)うーちゃんはとても優秀で10年も粘ったのに日本を離れなければいけなかった。余白を持たせた悲しい終わり方。

T:コミックスタイルである点。

本に触れることがない人が読めるところが良い。ときどきページの間に挟まる昔の少女漫画風のイラストを見るに、作者は他のタッチの絵も描ける。*p45参照

あえてこのゆるい絵柄で描いているのは読みやすさをめちゃくちゃ意識してのことだと思う。以前私が受けたSNS投稿についてのレクチャーでは、わかりやすく相手に伝えるにはどれだけ内容をかみくだなければ伝わらないのか教わった。この作品は日本人に受け入れられるために配慮しつくされている。

見た目としては日本人としてパスできるうーちゃんが浴びるように受けるマイクロアグレッションが伝わる。わたしの友達のミックスの子はよく職質とマイクロアグレッションを受けると話してくれるが、このコミックエッセイの形で初めてマイクロアグレッションを浴びるように受けるとはこういうことかと理解できた。

AR:外国人が日本で過ごしていて経験する嫌なことを、誰が読んでも物語としてわかりやすく書いている点。話の流れがわかりやすく、読みやすい。くーさんのあとがきも好き。優しくなるにも知識が必要で悪意のなさが傷つけることがある。

R:単なる外国人が受けるマイクロアグレッションあるあるで終わっていない。着眼点が良くてもクオリティが追いついていないマイノリティの作品はたくさんあるが、この作品は一つの物語としての強度がある。うーちゃんと恋人のいっしー先輩が所属するオーケストラ部が作劇として効いている。音楽が物語に絡む語りのうまさも好きだった。

 

2.よくわからなかった/疑問に思った/微妙だと思った点は?

不評だったシーン

  • P147 第41話「うーちゃん」

うーちゃんといっしーの決裂後。それまでのうーちゃんの言動に対するいっしーの心の声が書き込まれる回

うーちゃん:「ウ・ユンスルです」と自己紹介。

いっしー:「うーちゃん!じゃあこれからうーちゃんにしよう!」イッシーの心の声:本名は5分で忘れそう。

 

AR:彼の性格が悪い心の声が書き込まれるエピソードがあることで、読者が自分はいっしーみたいにクズじゃないと思えてしまう余地がある。

いっしーについてのコマがあるなら、読者に向けて「これはこいつだけじゃなくてお前たちに言っとるんやぞ」と突きつけて欲しかった。もう一捻り欲しい。

AK:彼がうーちゃんのことが好きな理由は自分が支配可能だったからだとわかったシーンでもある。いっしーの視点は彼自身から聞いたのか、共通の友達から聞いたのか、自分で想像したのか気になった。

  • P146 第40話「さよなら」

会話で「フェミニズム」という単語を出したうーちゃん。いっしーは「西洋の変な思想に洗脳されている。韓国の方の洗脳は治せそうだったけど、こういうのまでは無理だよ…。」と言う。唖然としたうーちゃんは「ヤイケシバルセキヤ」(韓国語で「お前、最低だな。」作注:最も激しい言い方。よほどのことがない限り使用しない)と言い放つ。

 

 

R:うーちゃんがはじめて韓国語で罵る言葉がカタカナ表記だったのだけが残念だった。日本語ネイティヴに配慮した結果だと思うが、ハングルで書いた方が彼女の怒りといっしーとの決定的な断絶がより伝わったと思う。

疑問

①AK:(上記のシーンに関して)この韓国語の表現はどれだけ激しい言葉なのか気になった。4年も付き合ってここで初めてお前最低だなと出るのはなんでだろう?

②AK:攻撃されるリスクもあるのに実名でこの作品を発表することにした理由が気になる。

3.いっしー先輩と日本社会が要求する理想の外国人(韓国人)像とはどのような姿だと作中から読み取れるか?

R:完璧な日本語を話し、日本をアゲ、不快にならない程度に海外から見た日本の姿を教えてくれる外国人。日本のバラエティ番組に出る白人タレントみたいな奴。

T :”普通の日本人”の”普通”とは主張をしないこと。いっしー先輩が要求する外国人とは、”日本のことが好きでいてくれる主張をしない外国人”。(いっしーを通して自分を省みると)自分も中国出身の同僚に、「日本語ではこういう言い方をした方がネイティヴぽいよ」とかクソバイスをしていたことがある。当時の自分は彼女に従順な外国人にいてほしいと思っていたのだと思う。自己主張が強いその人を(その人個人の特性としてではなく)、「あの人は〇〇人だから主張が強い」と処理していた。

AK :女性に対して主張をしないことは特に求められがち。外国人であり女性であるうーちゃんに対し、年上の日本人男性であるいっしーはそれを強く求めていたのかも。

(この質問から話題は自分の中の外国人への偏見、身の回りのネトウヨの話へ展開)

AR :自分は営業職をやっていて、仕事で中国,韓国の事業者と話すすることもある。日本の事業者が嫌なことをしてもそいつが嫌なやつだと思うだけだが、外国人とトラブルが発生すると上司は「中国人は最悪だな」などと言う。自分は律しているが、一方で「言葉をが通じないとやってらんねえな」と思う自分もいる。日本語を話せない、日本の慣習を知らない人に対し、むこうに歩み寄ってやってるんだからという驕りがある。

AK:嫌な人に会うと〇〇人だからだなと思うのは楽だが、楽な方向に流れず、個人と向き合ったり、自分の中になぜその人を嫌だと思う原因があるのかを見つめることが大事。

AR:(いっしーのような)ネトウヨは,なぜ自分がそう思うのか,なぜ自分が居心地の悪さを感じるのか,自分の中に原因があると考えない。理由を外国人に見出す。

4.作中うーちゃんはどのようにいっしー先輩≒日本社会が要求する理想の外国人(韓国人)像に適応しようとしていったか。 エピソードを例に挙げて

うーちゃんは異国の地の学生生活で、特別言語に苦労する様子もない。厳しいオーケストラサークルと工学部での学びを両立し、ネイティヴのコミュニティにも溶け込む。長く付き合う現地の友人を作り、外国での就活も成功させる。人当たりも良くてハイスペックな人。そんなハイスペックな外国人でも日本社会では求められる外国人(韓国人)像に過剰適応し苦しむ。

AK:この作品を読んで「1989年生まれ、キムジヨン」を思い出した。主人公のジヨンもうーちゃんのように優秀で頑張りやさん。それでも「女性だから」「娘だから」「妻だから」とラベルを貼られ、社会の抑圧構造からは逃れられない。

以下,参加者が挙げたうーちゃんの「理想の外国人(韓国人)」像過剰適応のきっかけになったエピソード

夏合宿のサザエさん事件

P28 第7話 夏合宿(1)

夏合宿のクイズ大会。「サザエさんの結婚前の職業は?」という問題が出題され、サザエさんを知らないうーちゃんは不正解。みんなの常識を知らないと落ち込んだうーちゃんは会場を抜け出し泣きながらサザエさんを検索する。

T:このときサザエさんは誰かとその場で聞けなかった。

うーちゃんがどれだけ言語に長けハイスペだろうが、大人になってから外国から来た人にはローカルネタはわからないのに。

このシーンをはじめ、うーちゃんはいつももやもやを他の人に共有しない。

 

②いっしーに捕まってしまったきっかけ 全員が叫んだデジャヴシーン

P38 第10話「闇練」

いっしー不在のオーケストラサークルでの夜間練習のあと。サークルのさとし先輩が「送ろうか?時間も遅いし。」とうーちゃんを家の近くまで送る。このとき先輩は「家のすぐ前までついていくのもあれだし。」と家までをついて行かずに別れる。

別の日

さとし不在の夜間練習後。いっしーが「送ろうか?時間も遅いし。」とうーちゃんを家まで送る。このときうーちゃんの家がいっしーに知られてしまう。

翌日いっしーは予告なくケーキを2つ持参しうーちゃんの家に来る。

 

(このエピソードは作者のクーさんの実話ベースだそうです。)

全員がデカい声で:さとしにしとけ!!さとし

T:さとし先輩はできる男だよね。

このときいっしーに家バレしたところからグルーミングが始まった。

 

③いっしー先輩にうーちゃんが抱きしめられるシーン

P45 第12話「告白」

T:優秀な女性ほどクズに捕まりやすいってこのことじゃん!!

 

韓国料理を作ってあげるシーン

P48 第13話「海苔を消化できるのは日本人だけ」

付き合いはじめたいっしー先輩に海苔をふんだんに使った韓国料理ポックム・コチュジャンを作ってあげたうーちゃん。

いっしー:「これスンゲェうまい!!」「だけど知ってる?海苔を消化できるのは日本人だけだよ!」「うーちゃんは残念でした〜」「ある研究でね、海苔を消化できる酵素は日本人しか持っていないことが明らかになったんだって。」

うーちゃんは心の中で「??? 韓国人も海苔はたくさん食べるけどなぁ…。中国は?」と思いつつ言葉に出さない。

うーちゃんは日本人が発する差別発言に何度ももやるけれども最後まで言葉を挟まない。

自分の思いを飲み込んでいることが過剰適応に繋がった。

 

韓国語の発音を萎えると言われるシーン

P72-P77 第21-22話 「執着の始まり(1)-(2)」

二人が付き合いはじめて数ヶ月。いつからか不機嫌ないっしーが「ちゃんと話し合おう。率直にいうね。俺、君の韓国人なまりが無理なんだわ。聞くたびに萎えるんだよね…。」と言う。

このやりとりをきっかけにうーちゃんは発音矯正に取り組み、韓国語話者特有の訛りは完全に消えす。それからは日本人としてパスできるまでに日本語は上達する。しかし、「今発音を間違えた…。今日何間違えたっけ…。次こそ絶対間違えない…。」と「日本人らしい日本語」への執着が始まる。

AR:自己肯定感を一番近い人に下げられていくと、自分が受ける不当な扱いに怒ることが難しくなっていく。だから自分が受ける人種差別に抗議することも難しくなる。日本のマジョリティが韓国人に対する扱いを見て諦めるようになってしまう。

 

韓国人留学生との交流

P89 第25話「大学祭」

大学祭で韓国留学生会ブースのチヂミの屋台に行きたがるいっしー。知り合いも多いけどみんな私より訛りがあるからと行きたがらないうーちゃんはいっしーの気を逸らす。

P114 第33話「留学生支課」

大学院の入学手続きのために学生支援課に立ち寄ったうーちゃん。書類の不備がある韓国人留学生に対しタメ口で大柄な態度を取る職員。うーちゃんが手助けしようと声をかけると敬語を使いはじめ、露骨に態度が変わる。助けた韓国人留学生に「日本語本当にうまいですね。一瞬日本人かと思いました。」と言われ、「外国人っぽさを控えると対応も変わるよね。私は日本人になりすましちゃって他の留学生を置いてけぼりにしている。私だけ逃げている感じがする。」と思ううーちゃん。

 

AK:うーちゃんが韓国人コミュニティと距離を置いているのが気になった。いっしーにコントロールされていたから彼にどう思われるのか不安で近づかなかったのかも。

R:作者のくーさんのTwitter spaceで、当時韓国人留学生コミュニティでは日本語の発音でヒエラルキーがあったと聞いた。

AK:韓国人の友達が近くにいたら、いっしーの言動について「おかしいよ!」とか「あるあるだよね」と相談に乗ってくれ、違う結末があったのかも。

R:欧米に留学する日本人にも日本人同士でつるむことを嫌がる人たちは多い。ネイティヴのコミュニティに馴染もうする努力が裏目に出たのかも。

T:うーちゃんは自分のモヤモヤを他の人に話さない。

AR:ウーちゃんはなまじ何でもできてしまうからドツボにハマってしまう。

AK:うーちゃんがただのうーちゃんとして見られるためには日本社会が思う韓国人のステレオタイプにハマってはいけない。例えたまたまうーちゃんが気性が荒い人だったとしても、日本の世間は「韓国人って乱暴なんだな」と処理するから

R:内面を表に出さないことに加え、自分は日本社会の韓国人に対する偏見に当てはまらないようにしようとする意識があったのかもしれない。私にもハーフだから怠惰だと思われないように行動を律していた部分がある。

5.作中の時代(2010年代はじめ〜2020年?)から2023年にかけ、日本の外国人(韓国人)を巡る環境はどう変化した?

  • 韓国人に対する視点は蔑視からフェティシズム
  • 韓国人である個人を崇めつつ、属性への差別は温存
  • ネット上のヘイトの対象はコリアンからクルド人
  • 差別は金になる

作品の時代設定:2010年末〜2020年。

うーちゃんは2010~2011年ごろに来日、大学入学。

2015年12月に公開された映画「スター・ウォーズ エピソード7」の白人女性と黒人男性を主人公に起用したキャスティングに関する会話で二人は決別

2020年ごろに日本を去る。

 

 

読書会で話題に登った2010年~2020年の日本の外国人(韓国人)にまつわる事件・立法

2010年代前半 在特会によるヘイトスピーチデモ・朝鮮学校への攻撃が頻発

2017年 ヘイトスピーチ解消法

2022年 韓国人学校への放火事件

2023年 入管法改正 大手新聞社も加担したクルド人に対するヘイトスピーチが悪化

 

AR:(うーちゃんが日本で大学生活を送る)10年代前半は嫌韓まとめサイトが流行っていた時期。ネット上の人種差別がひどかった。自分自身もLineが出てきた時もLineって韓国企業だから(よくない)と言った会話をした。

R:オフラインでは、2017年のヘイトスピーチ解消法制定から在特会のデモはおとなしくなった。しかし、2022年にも韓国人学校への放火事件が起こるなどヘイトクライムは無くなっていない。

AR:2023年の今は韓国人へのネット上での差別がマシになったけど、人種差別自体が悪いことと広く共有されたわけじゃない。差別の対象が他の属性に移っただけ。今は2010年代初めのコリアンへのヘイトがクルド人に向いた。2023年では韓国人へのヘイトスピーチはコテコテのネトウヨしかやってない。

R:2010年代後半から20年代は韓国人に対する視線は蔑視からフェチ化に変わった。Kカルチャーが一時の流行ではなく一ジャンルとして日本に根付いた。その影響で、韓国人は色白で背が高くて垢抜けているというステレオタイプが若者の間にある。**若い女の子の間では韓国人と付き合うことがステータス。白人ハーフに向けられていた憧れと外国人嫌悪、嫉妬が混ざった視線が今は韓国人にも向けられている。それはポジティブなステレオタイプにハマらない者を嘲笑することとセット。”韓国人の恋人””韓国人の彼氏”は”白人ハーフの子供/恋人”と同じタイプのトロフィーになった。

AK:他者を国籍で括るという根本は変わっていない。自分も日本人だから良いとかまじめとか言われても全く嬉しくない。日本人という属性より自分自身の特性を見てほしい。

T:韓国人表象は良くなっていない。小池百合子東京都知事はずっと関東大震災で虐殺された朝鮮人犠牲者への追悼文を出していない。そのことに対して怒らないことがノーマルである社会。それを無視したままKpopなどの韓国のカルチャーを消費することが気持ち悪い。BTSのファンが兵役を始めたとき、日本のファンが軍の機関紙に応援広告を出した。自分は、(日本人が)韓国のコンテンツを好きになることに、戦中に日本がアジア諸国に与えた被害を解決せずに良いところだけ搾取しているのではと思い、後ろめたさがある。慰安婦問題になると日本のKpopファンもおかしくなる。韓国人である個人を崇めることで自分が韓国人一般への差別を温存していることはないものとしている。ただ差別するより悪質。一見良くなってるかもしれないけど足元を見てほしい。

AK:(日本人のKpopカルチャー消費について)自分の先祖がしたことの上に自分達があるのに、植民地支配の歴史に学ばないで良いところだけ搾取するのがグロテスク。

いっしーがうーちゃんに完璧な日本語を求めるのも植民地主義

話題はヘイトの対象がコリアンからクルド人に移行したとの意見をきっかけに、2023年の日本の人種差別へ

  • 差別は金になる。

AR:今はヘイトスピーチの対象が韓国人からクルド人に変わっただけ。クルド人一人が悪さをしたらその人が責められるのではなく、クルド人全体が攻撃される。

「犯罪者の日本人がいるから同じ日本人として彼らをパトロールし、共生を目指す」なんて絶対言わないくせに、クルド人が日本人からのクレームを受けて街をパトロールすることは美談にする。素行の悪いクルド人がやったことの責任を無害なクルド人に押し付けている。

AR:(2020年代は)2ch的な言動がインモラルとされなくなった。これがスタンダードになり、批判することが偽善とされる。

R:2023年からX(Twitter)は投稿のインプレッションに応じて投稿者に収入が入るようになった。ヘイトでいくらでも金儲けできる時代に。

T:アイヌ在日コリアンを中傷した杉田水脈議員は発言についての記者会見をせずにYoutubeで弁明した。動画の再生回数に応じて広告収入も入る。

AR:ひろゆきの罪は重い。リアリストを気取ってただ露悪的でいることがノーマルになってしまった。嘘も100回言えばほんとになる忘れっぽい時代。なので(2023年にもまた)いっしーが生まれる。

AR:ネトウヨをやってしまう人は自分以外全員バカだと思っている。(差別的な言動を諌められると)自分を責められている気になるのか?居心地の悪さを引き受けたくないのか。他人への敬意がない。全方向に失礼。謙虚さがない。ヘイトを撒き散らす人は良くあろうとしているひとのことを敵視するのはなぜか。

6.身近にいるいっしー先輩とどのように付き合っていけば良いのか。対話は可能なのか。

R:この作品は「ダーリンは普通の日本人」というタイトルが適当。いっしーはどこにでもたくさんいる。

AR:自分の親はいっしー。積極的にネトウヨの言説を調べたりはしない人たちだけど、僕は距離をとってしまった。

T:今の自分ならいっしーがそばにいたら「今の面白いと思っていったの?」とストレートに言える。(それが差別や偏見であると他の人が)言わないといっしーのような人は一生気づかない。でも一生伝わらないと思う人には私は指摘もしない。

話題は参加者たちの周囲にいるネトウヨとの関わりへと発展

T:いっしーレベルならともかく、(ハードコアなネトウヨの)自分の兄とは会話できない。突き放して、必要がない限り近づかないようにしている。

AR:会社の上司がネトウヨで、彼はネットのヘイト言説をリアルでもそのまま話す。自分が入社してから4年間ずっと韓国ヘイトの話をしている。自分は最初から「俺はそれ嫌ですけど」「そうは思わないですね」と否定していたら、それを面白がってきた。差別的な話をしてでもARはそういうの嫌だもんなとか言ってくる。聞く耳を持たない。「部長みたいなネトウヨはそうは思わないかもしれないですけど」と一度言ったら相当嫌だったらしく、「お前は俺のことネトウヨと言ってくるもんな」とずっと絡んでくる。対話にならない。

根っからのネトウヨには言ってわかってもらうには無理、ただ自分がいる空間ではその話題をさせない、不快になるとわからせるだけ。

ネトウヨに向かって「ネトウヨ」というと効く。最悪なことをしながら最悪と言われるのは不快になるらしい。

いっしー先輩レベルの”ネトウヨ”なら差別発言をさせないことは可能か?

R:いっしー(というキャラクターは)自分と近しい外国人は「外国人」(あるいは特定の国籍の人たち)全般に対するイメージから切り離し、多くの「外国人」への差別そのものは温存するマジョリティの象徴。でも気に入った外国人が自分に都合が悪い言動をしたらまた「外国人」の枠に押し戻す。

P128 第36話「わだかまり

うーちゃん:「日本の就活の厳しさは少し変だと思う。韓国ではそこまでみんな一緒になる必要はない。」

いっしー:「韓国ってまあ規律や秩序がないよね。」

うーちゃん:「私と付き合ってもう3年になるのにまだそんなに韓国のことが嫌いなの?」「わたしとつきあって韓国だからって全て悪いわけじゃないって分かったんじゃないの?」

いっしー:「だって、うーちゃんは韓国人じゃないもん。」「うーちゃんは特別なケースなんだよ。韓国人にカウントされない。」

うーちゃん:「いっしーが気になるっていうから日本語のイントネーションまで直したのにその結果がこれなの?」

いっしー:「その話何度目だよ。もう何度も謝ったでしょ。」うーちゃんってこう言う時は韓国人っぽいんだね。」

うーちゃん:「まさか今それ、「慰安婦」問題の話?「韓国人は何度謝ってもまた謝罪を要求する」って?」

その後二人はしばらく距離を置く。

R:このエピソードに関連して自分の経験を話すと、日本人の祖父母に「ヨーロッパは移民がいるから危ない。」と言われたことがある。彼らのの孫(私)も半分移民なのに。彼らは災害の時、在日コリアンの知り合いに助けられ,何十年も仲良くしている。そんな人たちも外国人全般にはネガティヴなイメージを持っていると知りショックだった。その人たちも私も祖父母が気に食わないことをしたら「危ない移民」になるのかなと思った。とっさにわたしの友達のお父さんはトルコ系ドイツ人でいい人じゃんと言った。しかしこれは前述の構造に乗っかった応急処置。後悔が残る対応。こういった症状に対する根本的な治療がわからない。だから差別発言を繰り返す人に「私はそうと思わない」ときっぱり言える人は尊敬する。

この質問から出た結論

  • 差別的な発言が出たら、そいつの発言に価値がないと表明する
  • いっしー先輩と付き合っていくのは宿題
  • いっしーにならないことは努力と反省でできる。Moment joonさんの解説で書かれていたように、差別の反対は「成長」
  • いっしーのような人とは付き合いきれなくても、いっしーにならないこと、なりかけても周りに「それは違うよ」と指摘してくれる人がいたり、自分で内省し学ぶ意思があれば、戻ることはできる。

最後に 個人的な感想

個人的に差別の反対は努力だと思います。「こいつは〇〇人だから性格は××なんだ」と思考停止せず、その人個人に向き合い(ときにはめんどくさい)やりとりをし、相手の話を最後まで聞き、うまくやっていく努力を怠らないこと。その人に対して自分が持つ感情の原因は何か内省すること。自分の中の差別をなくすには、思考停止の怠惰に屈さない意思が必要です。

本作のうーちゃんは「差別に負けず外国人が日本でサヴァイヴする」という評価軸から見れば敗北者です。しかし、「レイシズムがなくなる世界への前進」という点から見ればうーちゃんは勝者です。これからうーちゃんの周りで過ごす人は人種や性別を理由にマイクロアグレッションを受けることはないでしょう。彼女からもし知らずに差別をしてしまっても、うーちゃんはすぐに学び、同じことは二度としないはずです。 異国でマイノリティとして暮らしていても、「階級社会だからアジア人は差別されるのは当然」と言ったり、他のマイノリティを排斥する人たちは少なくありません。最後にうーちゃんが得た、出身国韓国にある人種差別への批判的な視点も、他のマイノリティをを手助けする行動力も、彼女の努力と内省なしでは手に入らなかったものです。

この作品は決してマイクロアグレッションあるあるではなく、様々な立場の読者にあなたはこれからどうする?と問いかける物語です。現実に持ち帰るものが数多くあるマンガ「ダーリンはネトウヨ」ぜひ読んでみてください。

 

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